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Sweden Göteborg大学(佐々木 信幸)

佐々木 信幸

平成22年4月から1年間、菊地先生、紺野先生をはじめ、我々の先輩達が築かれた留学先であったSwedenのGöteborg大学のBjörn Rydevik教授、Helena Brisby先生のもとへ留学させていただきました。

Göteborg市はSweden第2の人口を持つ都市で、Swedenの南西の海に面した工業都市です。自動車のVOLVOの本社があったことで有名です。街には路面電車が走り、街の建物は古いヨーロッパ風の石造りの建物の外観はそのまま、内部は近代的にリフォームされた日本には少ないスタイルのもので、歴史的なものと近代的なものが混在しています。北欧といっても、暖流に面しているおかげで、緯度の割には温かく、気温の推移としては南会津くらいの感じで、冬は雪は多くはないのですが、町中が凍りつくという感じの寒さでした。夏は白夜で有名なように夜遅くまで明るく、夏至には夏至祭というお祭りがあり、心待ちにした春を街全体が祝う雰囲気が本当に素敵でした。逆に冬は日照時間が短く、イベントの無い11月はちょっと辛いのですが、12月になるとクリスマスマーケットが始まり、家族一緒に楽しい時間を過ごすことができました。

夏至祭

 

福島の大学院では主に後根神経節や脊髄を中心とした神経因性疼痛について勉強してきましたが、留学先では、適度な運動が軟骨再生に及ぼす影響について研究するグループで、主に運動とstem cell nicheについて研究していました。stem cell nicheとは、stem cellが局在している場所であり、stem cellが存在できるために有効な環境がある場所です。当時、軟骨下骨から細胞が供給されていることは知られていましたが、軟骨周囲のstem cell nicheはわかっていませんでした。細胞分裂の盛んな組織に取り込まれる5-bromo-2-deoxyuridine (BrdU)を運動群と非運動群のラットに飲ませた検体の脳、膝、脊髄、椎間板、アキレス腱などをグループで分配して、一部位だけではなく、全体としての影響を調べていました。僕の担当分野は腰椎椎間板でしたので、椎間板をスライスしてどの部位に細胞が増殖しているかを確認し、stem cell nicheの部位を推測するということをやっていました。研究室の皆さんや留学先の教授達にお世話になり、なんとか論文を書いて帰ってくることができました。

Swedenには”Fika”という習慣があります。日本でいうお茶休憩を長く、本格的にやるような感じで、コーヒーを飲みながら、お茶菓子を食べ、スタッフ同士でおしゃべりをする時間です。1日に4-5回くらいあり、その都度、社会的なことや日本やスウェーデンの文化のことなどの雑談に始まり、日常生活の不自由さがないか、研究の進捗状況は順調かなどさまざまなことを話します。膝を扱って、研究を専攻させていた人から、軟骨の中央ではなく、辺縁や軟骨膜のあたりで細胞増殖があったこと、腱を扱っている人からはアキレス腱周囲ではほとんど細胞増殖が見られなかったなど自分達の研究の中間やその時点での仮説などを気さくに教えていただき、本当に勉強になり、また、研究の楽しさを教えていただきました。

研究室 ”Fika”

 

Göteborg大学の先生方はみな親切に実験のみならず、日常生活のことなども教えてくれました。私の拙い英語力のため、お互い意志の疎通に苦労していましたが、4か月が過ぎた頃から少し英語に慣れて、コミュニケーションが取りやすくなったのを思い出します。それでも、9月初めにSICOT/SIROTがGöteborgで開催され、福島の先生方に会って、日本語で話ができる喜びを感じました。

留学中は医師業から離れ、日本とくらべてゆったりと時間が流れるため、家族と過ごす時間ができ、本当に嬉しかったのを思い出します。当時2歳の娘が、日々新しい言葉を覚え、新しい遊びができるようになっていく成長過程一緒にみることができ、貴重な時間をいただきました。よく行くスーパーマーケットの近くに遊園地の年間パスを買って、買い物帰りにひたすらメリーゴーランドに乗って楽しんでいたこと、クリスマスにサンタクロースに抱っこされて、この世の終わりのように泣いていたこと、アイスランドの犬に日本語で話しかけておしゃべりしていたこと、一緒にオーロラを見に行った時には、なかなかオーロラが出ず、やっとオーロラが出たらアンパンマンの動画に夢中で見ていなかったことなど、親として本当に幸せな時間でした。夏休みにはSweden国内やヨーロッパのほかの都市を旅行し、いろいろな博物館や歴史的建造物を訪れることもできました。また、現地で知り合いになった全く違う分野の研究者の方達とサッカー観戦に行ったり、アイスランドに一緒に旅行に行って、地熱でゆで卵を作ろうとして、怪訝そうに他の観光客に写真を撮られたり、楽しい思い出がたくさん出来ました。

アイスランド ブルーラグーンとオーロラ

 

留学させていただいたことで、英語は苦手ではあるのですが、英語に対する抵抗が格段に下がり、海外での研修にも積極的に参加できる心構えが出来たように思います。その後、ISSLSで発表の機会をいただき、AO Traumaでの海外研修の機会にも参加し、AO fellowでSwedenのUppsala大学で研修する機会もいただけました。留学の費用の問題は確かにあるのですが、それを補ってあまりある経験になると思いますので、若い先生にはぜひ留学に飛び出してほしいと思います。

 

最後になりましたが、今回の留学の機会を与えていただいた紺野先生、菊地先生、留学費用の貸与でお世話になりました医局の宍戸先生、留学にあたりいろいろご迷惑をおかけしました先生方に御礼を申し上げます。